Cherry ripe,
Ripe I cry
完熟さくらんぼだよ
完熟なのよ*1

*Cherry ripe, cherry ripe
 Ripe I cry
 Full and fair ones
 Come and buy
*完熟さくらんぼ、さくらんぼはいかが
 完熟なのよ
 ぷっくりツヤツヤ山盛りよ*2
 買いに来てちょうだいな
If so be you ask me where
They do grow, I answer there
もしもあたしに
「どこ育ちなの」とお聞きならこう答えるわ

Where my love whose lips do smile
There's the land, or Cherry Isle
There's the land or Cherry Isle.
唇に微笑み浮かべるあたしの恋人がいるところ*3
とある国、さくらんぼ島よ
とある国、さくらんぼ島よ

*Refrain
*繰り返し

Where my love whose lips do smile
There's the land or Cherry Isle
唇に微笑み浮かべるあたしの恋人がいるところ
とある国、さくらんぼ島よ

There plantations fully show
All the year where cherries grow
All the year where cherries grow.
見渡す限りの果樹園があって
一年中さくらんぼが実るのよ
一年中さくらんぼが実るのよ

*Refrain
*繰り返し

*1 このI cryはあんまり大した意味はない。なくはないけど、I cry off(ご免こうむるよ)とかI cry uncle(降参するよ)と同じような使い方。
*2 onesは複数のものが一緒盛りになっているものに対して使う。プチトマトひとかごとか。

*3 ripeは「熟れている」という意味の他に「赤くてふっくらしている」という意味もあり、唇の形容にも使われる。

text: Robert Herrick (1591–1674) 
tune: Charles Edward Horn (1786–1849)

昔からあるさくらんぼ売りの呼び声が元ネタになっている。本来は売り手は男で、「ジュリア」という架空の恋人に寄せた詩だった。

19世紀から第一次世界大戦あたりまで大流行した歌。ひところは「誰もが知っている」というくらい有名で、小説、映画、ドラマでもたびたび引用されている。

ジュリー・アンドリュースが「女装した男の振りをする女」というややこしい役柄を演じたミュージカル映画『ビクター/ビクトリア』で、食い詰め寸前のオペラ歌手ビクトリア(ジュリー)がオーディションで歌うのがこの歌。
彼氏とケンカ別れした上、同じく失業してしまったゲイの男性歌手トディーに見いだされ、「女装の美青年歌手ビクター」として売り出したら大当たりしてしまう。ところがギャングのボス(ノンケ)がビクターに恋をしてしまい…というお話。ジュリーはこの後喉の手術によりもとのような歌声が出せなくなってしまうので、最後のミュージカル出演作品となる。

食べられるのを待つばかりの「熟れたさくらんぼ」は、触れなば落ちん風情の少女を暗喩するとも言われる。コケティッシュな美少女を思わせる歌を、長身痩躯でお色気に欠けるビクトリアが歌うことで、ヒロインの場違いっぷりや迷走具合も象徴しているわけである。
掃除のおばちゃんがうっとり聞きほれているのは、美声だからでもあるが世代的にどストライクなのもあるかもしれない。つまりは、ちょっと時代遅れ。


Julie Andrews
収録アルバム: Victor/Victoria: Original Motion Picture Soundtrack
Cherry Ripe
Watertower Music
2019-03-15


ビクター/ビクトリア(字幕版)
ジュリー・アンドリュース
2015-04-30


おまけ:ジョン・エヴァレット・ミレー「熟れたさくらんぼ(チェリー・ライプ)」
もともとは新聞「グラフィック」の編集長の姪の娘エディーの肖像画。当時は富裕層の子女にコスプレ、特に田舎娘や貧しい物売りの恰好をさせるのが流行っており(かのアリス・リデルも物乞いに扮した写真が残っている)、この子も「さくらんぼ売りの少女」というスタイルになっている。本職の物売りにはまったく見えないわけだけど、まあコスプレってそういうもんだから。
CherryRipe1879_by_John_Everett_Millais








さらにおまけ:クィルターという別の作曲家が、へリックが「ジュリア」に寄せた恋愛詩6篇を選んで連作にした中の六曲目にも、この詩が入っている。